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                  | 「はじめに」より-004- |  
                  |  | わたしは、鉛筆がたどってきた歴史や、人々に知られていない現代の鉛筆たちの素晴らしさを、世に知らしめて守っていくことを生業とした人間として、鉛筆という物体にもう一度光を当てることを自らの使命とした。 鉛筆から得られる体験は、デジタル漬けの生活がもたらすものの対極にある。(略)、コミュニケーション技術と、大地が育んだ資源を人間が完璧な道具に仕立てあげたもののシンプルさが、互いに尊重し合う関係が生まれることを願ってやまない。
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                  | CHAPTER1より-009- |  
                  |  | ときは1560年代のとある日で、場所はイングランドの湖水地方。めったに吹かない突風のせいで、ノース・ウエストの緑の丘陵地の斜面にそびえ立っていたセイヨウトネリコ(オークとする説もある)の大木が根こそぎにされた。ぽっかりあいた大きな穴につづいて注目を集めたのが、鉛筆の歴史において何よりも重要な発見だった。見つかったのは未知の鉱物の鉱床。それこそが、わたしたちが黒鉛と呼ぶ物質だった。 木が倒れていることに気づいて、新たな原材料の可能性に目を留めた人物が誰だったのか、確かなことはわかっていない。黒鉛の起源にまつわる物語のほとんどは文字として残されておらず、語り伝えられるうちに伝説化していった。
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